イングリッシュローズだけで庭をつくったらこうなった

イングリッシュローズの会社、デビッド・オースチンが日本にローズガーデンをオープンしました。場所は関西空港から車で20分ほどの泉南市の山の中。大阪市よりも和歌山市のほうが近くてミカン畑の多い町です。なぜここに見本園を作ったのでしょうか。

イングリッシュローズといえば、日本全国でバラを愛好する人々にとって大きなポジションを占めています。よく誤解されますが、「イングリッシュローズ」とはバラの種類を指すのではなく、デビッド・オースチンの育種から始まったシリーズ名のことです。バラを始めて数年経てば必ず憧れるブランドであり、庭の中に最もたくさんの株数が植えられているメーカーではないでしょうか。どのバラも四季咲き性と香りのよさが大切な要素になっていて、色合いもまた派手さが少なく、やさしいものが多いのが人気の理由でしょう。

かつてはローズオブローゼスという会社が独占的に扱っていましたが、紆余曲折あって現在はイギリスのデビッド・オースチン・ローゼズ社が自らのりこんで、いくつかの代理店とともに展開を図っています。

さて、そのデビッド・オースチンが昨年、日本国内にローズガーデンをオープンしました。場所は大阪府泉南市。府民以外の人にはピンと来ないかもしれませんが、大阪府南部、関西空港から最寄りの駅まで10分ほど。大阪市よりも和歌山市のほうが近くてミカン畑の多い町です。

私が行ったのは昨年5月中旬。一番近い駅でタクシーを探したのですが見つからず、「まあいいか」と歩いて行ったのが失敗。大阪で育ったのに、北海道に長く住んでいると暑さに対して弱くなります。長袖で歩いているとくらくらするほどの暑さ。炎天下の中、山あいを縫う舗装道路を延々と40分歩きました。

デビッド・オースチンのローズガーデン

デビッド・オースチンのローズガーデン

そして突如現れるのがバラの広大な庭。しかもまだ完成予定の半分以下だそう。オーストラリア人の日本支社長さんと広報の女性に20分ばかりお話を聞いてからゆっくりと庭を見ました。

中旬とはいえ後半なのでバラはすでに終わりかけていますが、それでも十分たくさんの花が咲いています。敷地の植栽は全てイングリッシュローズです。品種の選定は、十勝千年の森のローズガーデン同様、マイケル・マリオット氏。植え付けの担当はこれまたイギリス人のお兄さんで、流暢な日本語を操りながらパートのおばちゃん達に指示を出したり質問されたりしていました。

すでにバラを植えた敷地は4つのパートに分割されていて、幾何学的な構図のエリアと曲線で構成されたエリアが2つずつ。どこになんの品種を植えるのか、細かい植栽図もいただきました。

整形式の植栽エリア

整形式の植栽エリア

バラは相当な株数が入っており、しかも株間が狭いため色彩の圧力がすばらしく、とても見事な景色。

なのですが、なぜかしら視線が定まらず、どこを見てよいのかわからない感じがします。その理由の1つは、どれも同じくらいの高さ(1m前後)で立体感が乏しいことにあるのかもしれません。ほかのバラ、草花、樹木などがないのです。アーチはありますがこの広大な風景の中ではさほど存在感がありません。

また色的な問題もあるようです。イングリッシュローズの特徴の1つはそのやさしい色合いにあります。ところがそうした色ばかりだと全体がぼやけて締りのない風景になるようです。それぞれの花の色はすばらしいのですが、そればかりだとパンチに欠けるんですね。

個人のお庭を取材に行くと、バラがいっぱいなのにいまいち感動しないことがありますが、どうやらそれと似ています(余談ですが、2本しかないのに感動することもあります)。
回転寿司もマグロばかりではおいしく感じないのと似ていますね。似ていませんか。そうですか。
いずれにせよ、すばらしい花を入れただけではいい庭にならないという事例として、とても参考になりそうです。もちろんこのデビッド・オースチンのガーデンが悪いという意味ではなく、自分だったらこれをどう生かすか、考える材料があるということです。

曲線で構成されたエリア

曲線で構成されたエリア

ところでもう1つ気になったこと。
それは、バラはこの暑さの中で大丈夫かなと、ということでした。なぜこんな暑い土地を選んだのか?
実はそこからデビッド・オースチン社の壮大なプランが見えてきます。そのお話は、また次回。

デビッド・オースチンのイングリッシュガーデン
新千歳空港から関西空港へは、LCCのピーチやジェットスターが運行。片道5000円前後からあります。関西空港からはレンタカーか、JR和泉砂川からタクシー。宿泊は大阪市内がおすすめ。